私が育った家はいわゆる分家で祖父や祖母がいなかったので、家から葬式を出したことがありません。初めて出した葬儀は「ほていや」の社長を務めていた父が平成元年に亡くなったときで、社葬を行いました。葬儀会社の方が段取り良く取り仕切ってくださったので、戸惑うこともなく無事に済ませることができました。

 昔の葬儀は亡くなられた方の自宅で、地域の人たち皆で協力して行うのが普通でした。地域には葬儀についての知識を持っている人や世話をしてくれる人たちがいて、故人を手厚く葬りました。ところが都市化や核家族化などの影響は地域の絆を薄め、地域の中で葬儀を行う場所を確保することも困難にしてしまいました。そうした中で登場してきたのが格調ある葬儀会場での葬儀だと思います。

 個人葬として行われる葬儀会場での葬儀であろうと、社葬であろうと、専門的知識のある方がきちんと指示をしてくれるので、喪主側としては大変に助かります。例えばお焼香の順番を間違えただけで、葬儀の後で親戚同士がけんかになったという話もあります。知識を持った方がきちんと対応する葬儀会社での葬儀ならば、そうしたミスは防げます。商売として行うのだから当然だと言われるかもしれませんが、葬儀は一生に一度のやり直しのきかない大事な儀式です。ご遺族や参列者に不満が残るようなことがあってはなりません。商売として行われるならば、当然そこには競争原理が働き、質の低い葬儀会社は自然に淘汰されていくことでしょう。
 
 葬儀会社の「商品」は何かといったことを考えてみると、豪華な祭壇や立派に飾り付けられた花だけではないはずです。それ以上に大切なものが心のこもった葬儀の進行です。具体的に言えば葬儀会社の社員のマナー、知識、心遣い、態度といった社員の質ではないでしょうか。参列者への対応も、悲しんでおられる遺族に代わって行うのです。社員のちょっとした不手際も、遺族の不手際ということになりかねません。葬儀会社の方が遺族の心情を共有するという心構えを持っているのかどうかは重要です。葬儀会場での葬儀では、同じ葬儀場で1日にいくつもの葬儀を行うところがあり、そのため、ときには時間に追われたり、場合によっては葬儀場を間違えたという参列者もいると聞いたことがあります。こうしたことも遺族の心情を共有するという心構えがあれば防ぐことができるはずです。
 また葬儀費用についても葬儀会社に支払う金額はどの範囲までなのか、お寺さんへの費用は含まれているのか、といったことを最初にきちんと見積もりなどで明確にしてくれると遺族は安心できます。仕方なく任せるのではなく、安心して任せられる葬儀会社を選びたいというのが遺族の本音です。
 
 私どもは呉服専門店です。呉服というと成人式の振り袖などを連想されるかもしれませんが、私どもは1ヶ月で200組の喪服を販売しています。結婚式は招待されない限り出席することはありませんが、葬儀は呼ばれたから出かけるというものではありません。亡くなられた方、あるいはお世話になった方のご両親などが亡くなられたときは、仕事を休んでも駆けつけます。
 葬儀は崇高な儀式です。そこへ出かけるのですから日本の文化として培われてきた正装としての喪服を着ていただくのは当たり前だと考えています。葬儀とは亡くなられた方をいかに丁重にお見送りできるか、の一言に尽きるのではないでしょうか。
 
 
   
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