平成十七年、七月二十六日に弟を肝臓ガンで亡くしました。長くC型肝炎を煩っていました。ウィルスが知られる以前に感染していたんですね。弟は、副理事長であるとともに外科医でしたし、自分の体のことですから、病気や死期についてもよく分かっていたのだろうと思います。私も医者ですし、長年いっしょに仕事をしてきましたから、ある程度の覚悟はできていました。だから比較的冷静に受け止められたと思っています。

 葬儀は、名古屋市覚王山にある日泰寺で、病院と弟の家の合同葬の形で執り行いました。通夜式に約八百名、告別式に約六百名の方が参列してくださり、厳かに見送っていただきました。葬儀を滞りなく執り行うために、一日の猶予を持って、亡くなった翌々日の二十八日に通夜式を、告別式を二十九日に行いました。
 
共立病院
通夜式の前まで、病院内に二日間安置したのですが、葬儀に参列できない病院の職員も、仕事の合間に出向いて顔を見てお別れをすることができて良かったと思います。病院は休むことができない施設ですから、たとえ社葬であっても、関係者全員が一度に職場を離れることはありえません。しかし、いちばん身近で仕事をしていた職員にとって、別れの機会がないというのは残念なことですから、その理由でも意味深い二日間でした。

 弟とは、仕事の上でも阿吽(あうん)の呼吸というか、お互いを理解していましたから、特に口に出さなくても、こちらの気持ちはわかってくれているだろうと思います。偶然ですが、二十六日は母の命日でもあったので、「まだ来るのは早いと叱られるだろうが、よろしく伝えてくれ」と、それだけ言って見送りました。
 

 仕事柄、医療関連の社葬やお別れの会に参加する機会があります。会葬者として参列するだけの場合も、弔事を依頼される場合もあります。最近では、二年程前に二度、参列させていただきました。そのうちのひとつは、昔から親しくしていた医療機関の理事長で、透析の患者さんでもありました。五十五歳という若さで亡くなられ、悲しいご葬儀でした。

 最近は、社葬を行う企業が減っているともいわれますが、社葬は、その企業や組織が永続的に発展するために重要な役割を持っていると思います。企業や組織は、社会的な人間、社会の協力があってこそ存在できるわけですから、その人物の時代の終焉に関係者が会して功績を讃えるというよりは、協力してくれた関係各位や社会に対して謝意を表し、トップ亡き後も関係の継続をお願いするという意味合いが強いと考えています。私共偕行会は、名古屋共立病院を中心として、愛知県内の各地域で医療施設や老人保健施設を運営しています。また、透析クリニックについては、関東や信州に及び、全国展開をしています。だから、弟の葬儀のように、法人の職員や関係者全員が社葬に出席することはできませんので、社葬やお別れの会という形で、社会や従業員に対して挨拶するのがトップの責任だと考えています。

共立病院
   また、人の死は予め予定に組み込んでおくことはできません。飛行機事故など不慮の事故に遭うこともあります。臨終から無事葬儀を終えるまで、時間の余裕はなく、規模が大きくなれば、それに比例して大変なエネルギーが必要になります。一方、参列者側からみても、社葬に参列するような社会的な地位のある人は多忙なもので、急な葬儀に赴くことができない場合もあります。喪主にとっては、家族での葬儀を密葬として、改めて社葬を行うことで時間的にも精神的にも余裕が生まれ、参列者にとっても、スケジュールを調整できるので参列しやすくなる。そういった意味でも、社葬は、喪主、会葬者双方にとって有意義なことです。
 
 医師であり、創業者として、かつては医療と経営の両方を行っていましたが、医師が医療に専念できる環境をつくるために、あえて経営に専念し、医療と経営を分離した組織を確立してきました。今、私が経営者として考えることは、自分の死後病院がどうなっていくか、つまりコーポレートガバナンスの問題です。自分の死後も適正な事業活動を維持していくため、懸念されることを火急的に排除し、是正しなければと常に考えています。また、経営におけるそれぞれの分野でトップを育成し、見定めて修正していかなければとも考えています。それには、創業者のアイデアを発信して学んでもらうことです。創業のプロセスを踏んでいかないと、受け身になりがちで新しいアイデアを生み育てることがなかなかできないんですね。

 人は生まれると、死に向かって歩いています。死を考えるとは、どう生きるかを考えること。死は生と一体なのです。マネジメントというのは、非常に創造的な仕事です。社会的な関係も広がり、必然的に「生」が激しくなる、しんどいし、精神的な負荷も大きくなります。しかし、だからこそ面白い。自分の「生」をかけられる生き甲斐になるんです。
 
 
   
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