日本社会は今大きなうねりの中にあり、様々な変化が起きています。空白の10年と呼ばれる時代を経て、政治、経済のあり方から企業のあり方まで、社会は急激な変化を遂げました。こうした変化は葬儀に対しての考え方にも現れています。社葬の形態もここ十数年でかなりの変化が見られます。
 まず密葬と本葬との役割分担の進展です。本葬の前に近親者だけを集めて行われる個人葬で、故人に対する引導などの儀式が行われます。本葬でも宗教的な儀式は残されてはいるものの、大方の儀式は個人葬で済んでいます。そのため社葬では個人葬から委ねられた告別式を中心としたセレモニーの意味合いがより強くなってきます。近年「お別れの会」という形式で社葬が行われるようになった背景には、同じ儀式の重複を避け、葬儀としての格調も損なわないようにするためであるともいえるでしょう。しかも、社葬・団体葬の本質が告別式であるとの認識が一般化してきたからだとも考えられます。
 
 社葬の本質は社会的プレゼンテーションにあります。経済が好調で企業業績も右肩上がりの時代であれば、社葬は積極的に行われます。とかろが90年代にバブル経済は崩壊し、その後遺症は長く続きます。こうした変化も社葬に大きな影響を与えました。
 長引く不況に喘ぐ日本の企業が行ったのは、リストラと経費の削減でした。社葬を営むとなれば、かなりの経費を必要とします。しかもこの頃になるとかなりの企業で世代交代が進み、苦難の時代を切り開いてきた創業者社長の多くがすでにあの世へと旅立っていました。もはやトップの死が企業の危機につながるという切迫感は薄れていました。しかも多くの企業では何らかの形でリストラを実行していました。そうしたトップを大々的に弔うことに対して社会がどのように判断するのかという心理も働いたようです。
 
 
 
 このような状況の中で取り入れられだしたのが合同葬です。複数の組織によって葬儀を主催するというのが合同葬の本来の定義です。しかし、会社によって行われる合同葬は会社といった組織と、遺族という個人が共同して主催する葬儀という意味で使われています。つまり密葬と本葬とに分離していた葬儀を合同して営むということです。
 合同葬にするメリットは第一に経費の削減にありました。従来は密葬と本葬とに分けて葬儀が行われていたとしても、実質的には会社が両者の葬儀費用を負担する場合が大半でした。しかし合同葬ならば死亡した直後に行われる個人葬の形態をあわせ持っているので準備期間も短くて済み、社葬よりも少ない費用で行えます。
 
 密葬と本葬という2つの儀式は一見すると同じように見えますが、宗教的な観点から考えると異なっています。密葬は故人をあの世へ送り出す儀式で、向こう側の世界、つまり来世での平安なども祈ります。そこには宗教的な儀礼が必要となってきます。しかしお別れの会は別れるだけであって、人々が思いを馳せるのは、故人の現世における過去の出来事だけで事足ります。そのためお別れの会から宗教的な儀礼が希薄になっていったとしても不思議ではありません。一方、終身雇用、年功序列といった日本的な経営は社員の組織に対する帰属意識を希薄にし、その結果、社葬はもはや身内の葬儀ではなくなりました。いわば単なる行事的なものという感覚が強くなってきます。そこでの儀式はより形式的なものとなっていかざるを得なくなります。
 
 
 お別れの会の需要が伸びた背景として、ホテル業界の戦略も見逃せません。不況によって宴会需要が減ったホテルが新しい商品としてホテルでの葬儀を開発したのです。当初はパーティー形式でのお別れの会に抵抗を感じた人も多かったはずです。しかし、パーティーそのものは決して新しいスタイルの文化ではありません。そこにお別れの会を受け入れる素地はできていたのです。あとはお別れの会形式の「社葬」が認知されるだけで、急速に広がる可能性がありました。そしてお別れの会を大手企業が採用したことによって社会的に認められ、一種の流行として多くのところが採用していったのです。
 
 
 葬儀は非日常的な行事です。それも、ある日突然に日常の中に訪れます。日常から非日常への変化には戸惑いが付きまといます。しかし、お別れの会というのは日常の延長線上で臨むことが可能です。そうしたところにもお別れの会が広く受け入れられる要素があったとも考えられます。
 社葬がどのような名称や形式で行われるにせよ、本質的なところにおいて死者への弔いがなければなりません。宗教性の有無に関わらず、そこの原点が見失われるようなことがあったとすれば、それは死者への冒涜(ぼうとく)であり、ひいては生きている人の尊厳をもおろそかにしかねなくなる危険性をはらんでいるといっても過言ではないでしょう。
 
 
 
   
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